2011年4月(その1)




(4月15日)NEWFACE

ジュンク新宿なら手に入ります!





(哲学)ライプニッツ研究》


   


日本ライプニッツ協会が創刊したガチンコ研究誌。当然読み応えアリ。







(建築)《Grown》


  


建築家・宮本佳明さんの作品集。海外向けに作られたので全て英語ですがノープロブレム! かわいらしいポケットサイズの作品集。ぜひ!







(建築)《IAES:volume01》


  


2009年にUCLA東京大学の共催で行われた「建築教育国際会議」のドキュメント。UCLAから発行されているので、日本ではなかなか売ってません。1575円(税込)で販売します。ぜひ!







(建築)《ねもは01:絶版★建築ブックガイド40》


  


東北大学の有志が中心になって立ち上げた建築系ミニコミ誌。震災後も追加注文をちゃんと納品してくれました!







(マンガ)《爆弾にリボン》


  





(マンガ)《Sunny Sunny Ann !》



   





ミニコミ《300books vol.1:特集インセプション


  


《爆弾にリボン》《Sunny Sunny Ann !》《300books 》文学フリマで発見したイチ押し本です。山本美希さんというマンガ家の作品集(300booksは島貫泰介さんとの共作)。シュールな感じが、独特のイラストによって際立っています。イラストって書き込めばいいっていうんじゃなくて、やっぱ才能。ネットで調べると、どうやら山本さんは日比野克彦賞を獲った人らしい。ぜひ!





平常通り午前11時から午後9時まで営業しています。



ジュンク堂書店新宿店



(4月12日)東日本大震災復興へのアプローチ(4)

  がんばろう日本!プロ野球開幕!




球場には行けなかったが、テレビでプロのレベルを堪能した。



やはり巨人・坂本勇人選手は要注意。その他、横浜・吉村裕基選手も要注意。フォームは悪くなったと判定されるだろうが、ハンターとして嗅覚が格段にアップしている。



タイガースはチーム全員の気持ちが野球にこもっている。さすがにマエケンには負けると予想していたが、気持ちで勝った。



そして、今日はやっぱり楽天嶋基宏選手だろう。あれは嶋選手が打ったホームランではない。嶋選手はあんなに美しいホームランを打てる選手ではない。嶋基宏選手ではない嶋基宏選手が打ったのだ。



つい最近、同じようなゴールを目撃した。



そう、カズのゴール。豪快なミドルシュート!という感じではないが、あまりにも美し過ぎる。ポジション、タイミング、スピード、タッチ、全てが完璧にデザインされている。あれはカズが放ったゴールではない。カズではないカズが放ったゴールだ。そして、カズはそれを完璧に理解している。


 三浦知良『思いに運ばれたゴール』



これまでいろんなゴールを決めてきたけれど、こんなに喜ばれたのは記憶にない。「カズ、ありがとう」「言葉にできない」「ほんと、涙が出るよ」・・・。今まで体験したことのない、特別な感覚。こういう1点というものがあるんだなと、しみじみ思う。


後日、「カズ」を知らない小学生がカズダンスをマネしていたと聞き、うれしくなった。僕が想像したよりずっと、慈善試合でのゴールは大きくて、重かった。


闘莉王選手(名古屋)がボールに競ると感じた時には体が駆けだしていた。目の前の空間にボールが落ちてくる。ロードがぱっと開けたようで、体が覚えているままに僕はシュートを放っていた。無意識のうちにボールのバウンドをとらえ、コースを選んでいる。それは「判断」を超えた、迷いの一切無い、いわばFWの本能だった。


「今までで一番胸を打ったカズダンス」と知人は言ってくれた。最後に振り上げた人さし指が、震える指から発する思いのようなものが、いつもと少し違っていて、泣けてきたという。


Jリーグの歩み、日本代表の歴史、1998年ワールドカップ(W杯)に行けなかったこと。日本サッカーにまつわる歓喜も哀愁も背負ったまま、僕はサッカーをやっているのだろう。あの試合に注がれていたのは、見守る人々のそうした「思い入れ」。そして被災されて今なお苦しんでおられる方々の、何かを求め、欲する思い。それらに運ばれたゴールだった。大きな大きなゴールに、みなさんがしてくれたんだ。


祝福とともに「カズ、あんなに足が速かったっけ」とからかわれる。僕やトレーナーは言い返す。「あのくらい走れるよ。あのタイミングで球が出てくれば決められる。ちゃんと練習しているんだから」。サッカーに対する態度や考え方が今日までぶれなかったからこそ、あのゴールに至っている。やはりすべてはつながっている。素晴らしいです、サッカーは。


そして僕のサッカーは続く。あのゴールも「一つのゴール」になる。リーグ戦でもまた心に残るゴールを一つでも多く挙げ、みんなで祝杯をあげたいですね。もっと愛されるゴールを目指して。まあしかし、あれ以上のゴールというのは、なかなか・・・。


日経新聞2011年4月8日朝刊)









(4月10日)東日本大震災復興へのアプローチ(3)

  ホリエモン → カタリバ




  





 ■ 今週の《読書人》の1面は、なんとホリエモン!!!




   今回の震災を経験して、この数週間の中で、何が記憶に残り、これからどういう活動をされていくのか。お聞かせください。



ホリエモン マッシュアップというのかな、ウエブ上で、たくさんの人たちのネットワークができて、みんなが役割分担をして、ひとつのものを作っていくことができるようになったのを、強く感じましたよね。


どの被災地に食料が足りないのか、どこに何人が避難しているのか、そういった情報を、たくさんの人が入力し合って、グーグルやヤフーのサイトで見られるようになっている。自立的にそうしたネットワークができ上がった。そこが面白いことだと思っているんです。


多分、僕の役割は、現状あることに対して提言をして、実際に動く人たちを、啓蒙していくことだろうと思っています。インターネットが、今のように普及していない時代は、それができなかった。今は、大きな会社を経営していなくても、そうしたことができるようになったし、実際にその成果も出始めている。自治体のトップがツイッターで直接発言するようになったし、少しずつ政治の側にも広がりつつある。みんなが直接コミュニケーションができるようになった。これはとても進化した点であり、いいことだと思います。



週刊読書人2011年4月8日号 堀江貴文氏ロングインタビューより)


なるほど! 


確かにツイッターやブログを通じて発言すれば、誰かがそのアイディアを拾ってくれたりする。あるいは自分が思っていたようなことをすでに考えている人がいたりする。そういった個々のアイデアが繋がり、練られ、叩き上げられ、実現に至る、ということが起こりうる。


例えば、復興資金をどのように集めるか? 国の資金力には限界がある。そうなると眠っている「企業資産」や「個人資産」をいかにして投資に向かわせるかが問題となる。



さてどうする?



すると、



野村証券から1つのプランが打ち出された。


野村証券・復興支援ファンド


ちょっとワル知恵を働かせたら「サブプライムローン関連の証券化商品」みたいなものも簡単に作れてしまうと思うけど、さすがに今回はやめよう。


ああいうドッカン、ドッカン、スト〜〜〜ンという実態とかけ離れた金融マーケットではなく、もっと人々の生活に根付いた持続可能な金融マーケットをデザインすることもできるだろう。



さてどうする?



こういったアイデアを練るのは金融業界の人々に任せるとして、今度は現場サイドからも声を上げてみたらどうだろうか。


「お金がないから何もできない」と絶望的な気持ちになるのは分かるけど、自分たちに投資してもらおう、「我々の街は、会社は、人々はこんなに素晴らしい!」とアピールしてみたらどうだろうか。


こういった連携を深めていくノウハウは《カタリバ》がすでに構築しているような気がする。早速、読んで勉強してみよう。



  




(4月8日)新しい本たち

 《界遊005&ミニコミ2.0》




  



界遊》だんだんミニコミじゃなくなってきた。そろそろメジャー入りか!





  《ウィッチンケアvol.2》




  



ウィッチンケア》は2号になって内容がかなり充実してきましたよ!






《CUT01:吉阪隆正サバイバル論集》




   



新規参入「稀会」が作成。210円(税込)






  《アート・ティクトク vol.5》




  



アート・ティクトクを特別販売します。100円(税込)






  《アラブ革命を考える》




   







通常営業に戻りました。午前11時から午後9時まで営業しています。



ジュンク堂書店新宿店



(4月7日)東日本大震災復興へのアプローチ(2)

 4月6日のレポートに補足




○ 住民参加プロジェクトの注意点



10年ほど前に開催した《21世紀建築会議2000・05ユニット「エコロジー」会議》の記録から引用する。


阪根正行 僕は住民参加というのを一度経験したことがあります。今、美術家の岡崎乾二郎さんが広島県の灰塚という場所で行っているプロジェクトがあります。


  灰塚アースワークプロジェクト


灰塚ダムという新しいダムが建設されることになって、住民の立ち退きの問題などが発生して、住民のコミュニティが崩れてきた。実際問題としては、そのダムの建設地にあたった人は、多大な補助金が出て立派な家に住めることになって、それがまたおかしなことになった。立ち退いていい家に住めることになった人と、結局立ち退かなくて済んだのだけど、今までの家に住み続けることになった人との間にやはり、何かしらのズレみたいなものが生まれてきた。そこへ第三者として岡崎さんたちが加わって、美術の展示会やワークショップなどをやって、住民のコミュニティを円滑にしようということをやっているのです。


それで、そのなかのプロジェクトの1つとして、住民参加の公園をつくろうということをやったのです。住民の人は、何も言わなかったら出てこないけど、何か言えば、それなりに興味を持って出てきてくれるのです。そして公園づくりをやっている時はそれなりに楽しいからやる。ただ、それがいつの間にか、すごい方向転換をして、ものすごく盛り上がってつくり続けて、何かとてつもないものができてしまったのです。でも住民が参加してつくったから文句の言いようがない。だから、住民側もこれは何かおかしいなって思いつつも、どこにあたっていいのか分からない。そして、それがとりあえず放置されてしまうということになったのです。


それで、できた時にプロジェクトに関わってきた人、その人は住民の意見を反映させることに自分が関わる意味があると言っていて、でも何かおかしな物ができてしまったので、「その時、あなたの立場はどうなるのですか?」と聞いたら、「これはもう仕方がない」というようなことを言ってました。



難波和彦建築家) 岡崎さん自身が言っていたのですか?



阪根 いいえ。これは岡崎さんのプロジェクトではなくて、ビオトープとかをやっている人のプロジェクトでした。その人が、新しい公園をつくるというときに、ビオトープとか、植物学の知識を住民に提供しつつ、住民がこういうことをやりたいと言ったら、こういう植物を植えたらいいとか、そういうアドバイスだけをする。自分がこうしなさいとはいっさい言わないで公園づくりを進めたわけです。



難波 そうしたら、変な公園ができたんだ?



阪根 はい。なにか微妙な配置の木があって、それに木を渡して結んで、これを公園の象徴である鳥居にしようとか言って本当にそうしてしまったのです。これはつくっている段階では、みな同意という感じだったのだけど、つくったあとに冷静になって考えると、やっぱりそういう神聖なものにこういう触れ方をするのは良くないってことになって・・・・。でもみんな自分たちがつくったから文句を言えない。



難波 分かるような気はしますね。これがもし岡崎さんだったら、途中で一喝して修正したでしょう。



阪根 たぶん。



難波 それはビオトープをやっている人の思考の構造と関係があるような気がします。彼らを非難するつもりはないけれども、思考の構造というか感性が、何か一石を投じることに対して、二の足を踏ませるようなパターンになっていることの現れではないか。総じてエコロジーをめざす建築家のデザインの切れが悪いのは、そういうところに原因があると思います。コーポラティブハウスがスカッとしないのも同じ理由だと思う。その点、「ハーレンの集合住宅」は、アトリエファイブが住民参加でやったのだけど、非常に切れのいいデザインになっている。



  
Atelier 5, Siedlung Halen, Herrenschwanden, Berne, 1955-61



   



それはやはり明確なビジョンをぶつけ合ったからじゃないか。それで、阪根君は住民参加に対して拒否反応を感じる訳か?



阪根 いや、この時、僕自身がプロセスアートなどに興味があって、そういうことで何か面白いことができると思っていたのに、「プロセス」と「出来たもの」は違うということをこういうかたちで見せつけられたので、ためらいがあります。



難波 実際にそのプロセスに立ち合ったの?



阪根 いいえ、最後にできてからです。



難波 「これはおかしい!」って誰かが言わなきゃ駄目だよね。多分みんなのど元あたりまでは出てきていたのだろうけど。それを言うのはよくない、みんな一緒にやっているときは、水を差すようなことを言ってはいけないという暗黙のマナーのようなものがあるんじゃないか。異論を自己規制するマナーがね。これは悪しき意味でとてもジャパニーズだと思う。


これは10年前の話で、今はもう少し状況が変わってきている。アルゴリズムという言葉に代表されるように、この手の研究が数学分野で蓄積され、その成果を活用することで、住民の合意形成の手法も幅広くなってきている。


ただ、例えば昨年末に出た『思想地図β vol.1』で特集されている「パターン」についても話されていること自体は10年前と変わらない。パターンしかり、オートポイエーシスしかり、アレグザンダーしかり。


大きく異なるのは、10年前は理論だけがあって、研究の事例が少な過ぎたこと。またコンピューターの性能が低かったのも致命的。だから10年前は机上の空論に過ぎなかったが、それが今では段階的に実用可能になってきている。その点、10年前よりも住民の意思を幅広く反映させることは可能だろう。



しかし、いくらシミュレーションが容易にでき、無数のパターンを提案できたとしても、誰かが「決定」せねばならない。それは昔も今も変わらない。




(4月6日)東日本大震災復興へのアプローチ(1)

まちづくり会社による土地活用




マルジュン渋谷店でやっていた(まだやってる?)「コミュニティフェア」から何冊か参考になりそうな本をゲットしてきた。とりあえず4冊。



   



■ 足立基浩『シャッター通り再生計画』ミネルヴァ書房


■ 河井孝仁・遊橋裕泰『地域メディアが地域を変える』日本経済評論社


■ 上阪徹『「カタリバ」という授業』英治出版


河邑厚徳+グループ現代『エンデの遺言NHK出版

サンデルの主要論文や『ゲマインシャフトゲゼルシャフト』(岩波文庫)といった理論書も読みたいと思ったが、実践重視でセレクトした。


すでに『シャッター通り再生計画』は読み終えた。分かりやすい良書であった。今回の被災地も土地の権利関係で調整が大変だと思うが、この本に出てくる高松市丸亀町商店街の事例などが参考になると思った。もちろんいろいろと条件が違うので、アレンジは必要だが。



まず、以前紹介した中野剛志編『成長なき時代の「国家」を構想する』から引用する。


松永和夫(現・経済産業事務次官 先日、高松の丸亀商店街の成功例を見てきたんですが、なぜ成功したかというと、何代も続いた商店主が、自分の店や土地の所有権を放棄したからなんです。所有権を放棄することによって、デザインを統一化し、より売れる商品を出展させて、商店街として復活した。商店街にしても、農業にしても、おそらく彼らの発展を妨げているのは、戦前からの歴史を引きずったものとしての私有財産制、土地への執着なんですよ。しかし、たとえば丸亀の成功事例を他の商店街に応用しようと国が誘導したとして、所有権の放棄についてコンセンサスが得られるのかどうか。さらにいえば、人の問題、雇用の問題もそうで、企業が人を雇う、教育をする、離職者を再就職させるということについても、国の関与がもっと増えていかないと、市場に任せるだけではなかなか最適なものは実現できないと思います。しかし、そういうことに対する国民全体の受容力がともなっているのかどうか。そういうところが非常に気になります。


谷口功一(法哲学 まず、いまの松永さんの、商店街のお話はまさにそのとおりで、私も関心をもっていろいろ見てきたんですが、やはり立ち退かないんですよね。下のシャッターを閉めたままで上に住んでいて、立ち退かない。土地に対する執着という何かちょっと特殊なものが、どうもわが国にはあるらしい。しかし、コミュニティに関して新しい秩序をつくろうとすると、土地を中心とする私有財産に対する強力な介入というものが、どうしても必要になってくるわけです。これはやはり強力な権力を使って、中央統制的にやるというのが前提にあると思います。国外を見てみると、自由で市民社会が発達しているように見えるヨーロッパとかアメリカでは、逆に土地に対する国家の介入というのはものすごく強力に行われている。たとえば建築物の規制がそうです。よく飛行機で日本に帰ってくると、家の屋根の色が全部違っていて汚い、ヨーロッパはフィレンツェなんかがきれいだとかみんないいますけれども、あれは国家権力によって強制されているからです。街の条例なんかで、建て直してはいけないとか、ものすごく細かい規制がある。街づくりをするときでも、ゾーニング規制なんかを強力にする。そういう権力的な介入を厭わないというところがあるんですよね。それで、今後何かが変わっていくとき、新しい秩序構想を打ち出すときというのは、自由とかではなく、むしろ権力の問題と真正面からきちんと考えていくということが非常に重要だと思います。日本の場合は左派的な思考が幅をきかせてきましたので、権力は抵抗すべきものである、敵である、国家も敵であるというような考え方が非常に強い。権力論とか国家論とか統治論とか、そういう言葉を出しただけで、右翼だということで、そういうことに関して真面目に考えるという雰囲気が失われてきてしまった。ですから国家とか権力とか統治といった、いままであまり向きあってこなかった問題系に対して、あらためて向きあうということでも、まさに一つのターニング・ポイントであるというふうに思います。


萱野稔人(哲学、社会理論) まったく同感です。国家の役割の再定義ということを松永さんもお話しされましたが、たとえばネオ・リベラリズムといわれるものが席巻していたように見えた、このかんのグローバル化のなかですら、実は国家の役割はものすごく大きかったわけです。アメリカなんてまさにそうです。たとえばアメリカ政府の通商代表部というのは、完全に産業界とタッグを組んで、アメリカの産業界にとって有利な市場の条件を世界中に整備しようとしてきましたよね。そのときのスローガンが自由化であり規制緩和だったわけです。逆に日本では、その自由化というスローガンをそのまま真に受けて、ほんとうに国家の規制をなくせということで、国家を市場から退場させるような方向に議論が進んでいきました。しかし、ネオ・リベラリズムの本家であるアメリカでは、グローバル化というのは全然違ったわけです。(中略)つまりアメリカは、空を軍事的に支配しつつ、お金が流れて情報が流れる空間をみずから特権的に活用できるような環境を世界に確立しようとしてきたということです。そのための方便が、おそらくはネオ・リベラリズムだった。アメリカは、ネオ・リベラリズムという新しい世界経済のスタンダードを掲げ、各国に規制緩和を迫ることで、みずからが自由に活用できるお金と情報の空間を世界に拡げながら、ヘゲモニーを確立してきた。このように考えるべきなんです。ところが、日本の研究者や実務家はそのスタンダードを真に受けてしまって、いかに国家を退場させるかということばかり議論してきたのです。


(pp,369-372.)

少し余分なところまで引用したが、注目すべきは、やはり高松市丸亀町商店街の再生計画。


 高松の丸亀商店街


今回の被災地においても同じような動きをせざるをえない。元いた土地にそのまま住むことはできないので、このあたりが難しいのだが、住民が一番信用できる人、市長や町長に一旦土地利用の全権を委任した上で、まちづくり会社などと復興計画を進めていくことになるだろう。


近年、コーポラティブハウスや住民参加の街づくりが持て囃されたが、これはものすごく手間が掛かるし、責任の主体が曖昧になってしまうので、聞こえは良いがうまくいかないことが多い。住民の意見を取り入れることは重要だが、言いたい放題にさせてよいという訳ではない。最後は誰かが決断せねばならない。その誰かはやはり地元の人。市長や町長が適任だと思う。


その際に参考になるのが丸亀町商店街の成功例。ただ、足立基浩『シャッター通り再生計画』をあたってみると松永氏や谷口氏がここで語っているのとは少し事情が違う。住民が土地に執着せずに立ち退けばいいという問題ではない。特に今回の被災地においては、どこか遠くへ強制的に移住させるとか、既存のコミュニティを遮断するようなことがなければ、住民の方々には、元いた土地に住めなくても、比較的柔軟に新たな街づくり計画を受け入れてもらえるのではないか。それよりも問題なのは、土地の権利問題にまつわる住民のリスクを解消することである。 



足立基浩『シャッター通り再生計画』(ミネルヴァ書房)から引用する。


丸亀町商店街再生の特徴は、その土地問題の克服と再開発の手法にあることは広く知られた事実である。


ところで「地権者合意を経て、権利交換、そして富の配分」というプロセスをたどる再開発事業は、多くの地域では地権者の土地所有意志が強いのとリスクが不確実であるため、失敗するケースが多い。再開発型再生策に最も重要なのは、地権者の同意とそこにいたるまでの合意形成であり、それを説得する組織の存在である。


地権者を説得するためには、相応の利益とリスク管理、そして何よりも「信用できる人が説明にくる」ことがポイントにある。この点で高松市の成功の秘訣は、「まちづくり会社」の存在とその地位を高めた「財政基盤」の存在にある。高松市まちづくり会社は、その母体である高松市丸亀町商店街振興組合が1970年代から築いてきた五か所からなる駐車場経営に成功したという予算面での背景をもつ。また、同振興組合は組合員数420人(店舗数157店舗)で、その全員が地権者という点も大きい(基本的には地権者でなければ加入できないのである)。賦課金は10%を取っているため、予算規模は4億5000万円と一般的な地方都市の振興組合とは比べ物にならないほどの資金量を誇っている。


つまり、地権者同士が豊富な資金をもち、既にネットワークを有している点が、この町の再開発事業を可能にさせている。また、地権者同意のインセンティブとして、バブル景気のころに借金した際の担保であった土地がその後の地価下落で担保割れしたために、一時的に赤字を抱える商店経営者が多くなり、高松丸亀町商店街振興組合専務理事の熊紀三夫氏によれば「何とか土地を有効活用しなければ」という機運が生まれたという。


こういった「地権者の危機意識」と「ネットワーク」、そして「(まちづくり会社の)財政基盤」とが融合して、これから述べる定期借地制度を利用した土地開発事業が成功した。



○定期借地制度と土地利用の高度化


先術のように、バブル崩壊後、四国一高いといわれた丸亀町商店街の地価は20分の1程度にまで下落した。その結果、下落する地価に対して土地の保有意欲は薄れ、戦略的な有効活用へ向けた機運が漂いはじめたのである。


ここで丸亀町商店街が採用した手法が、土地所有権を残したまま土地利用の高度化が可能な「定期借地権制度」である。再開発後の権利床については地権者がこれを取得し、保留床についてはまちづくり会社が取得する。総額66億円の事業費のうち、建物については行政の補助金を活用した事業とし、土地については借地契約としたので、コストパフォーマンスに優れた再生策となっている。この結果、投資の利回りは年率25%という高い水準で計算され、土地所有者は相当額の地代を取得することが可能となった。


借地の期限は62年なので、いずれは返還され、この間の地代と再開発利益も地権者が受け取ることができる。テナントについても収益連動型の家賃システムの採用により、売り上げが少ない場合には低い家賃での営業が可能となった。この点も、新しく店舗を構えるオーナーにとっては魅力的であった。



○定期借地制度の課題


しかし、一般的にはこのように地権者が定期借地制度に同意することは容易ではない。様々なリスクが介在するからである。その一つが、定期借地として貸し出している土地の相続の発生であり、その際にはまちづくり会社が土地を買い取らなければならない。そのための引当金を確保する必要もあろう。また、現在は経営が好調なものの、商業売り上げが低迷した場合には空き店舗が発生するリスクもある。空き店舗が発生した場合には、その分地権者の収入が減るために、これを期待して生活設計をしていた地権者にとっては、売却もできないために対応に苦慮することになるものと思われる。丸亀町商店街の場合は、まちづくり会社がA街区からその他の街区にいたるまで総合的にテナントミックスするなどのマネジメントを行っており、リスクに対しては緻密な経営予測・計算がなされていた。そのため、様々なリスクを考慮した上で十分な再生計画を行うならば問題はないであろう。


(pp,111-114.)

これはあくまでも商店街再生計画の話なので、被災地の「まち全体」の再生計画とは条件が大きく異なる。ただ《まちづくり会社》の設立や、「定期借地制度」をアレンジして活用する、あるいはリスク計算など、多くのヒントが丸亀町再生計画にはある。



あと今日の朝刊に「信託銀行」からも声明が出ていた。



日経新聞2011年4月6日朝刊)

信託協の野中新会長「復興に信託活用」



信託協会長に就任した野中隆史みずほ信託銀行社長は日本経済新聞のインタビューに応じ、東日本大震災の復興支援に関連し「土地仲介などに信託の機能を活用していきたい」と述べた。今後、復興にあたる国や地方公共団体に対して「不動産や土地に関する知見を提言していきたい」との考えも示した。


具体的には「区画で集約した土地を信託して開発していく」ことや「一時避難している被災者の生活場所確保のための土地情報の提供」などを検討課題として挙げた。


野中氏は5日、信託協会長に就任した。同日の記者会見で「加盟会社が社会のニーズに応じた商品やサービスを提供しやすいよう環境整備し、信託に対する認知を高めていきたい」と抱負を語った。

本当にその通りで「信託銀行」の認知度が低過ぎる。私もよく分からない。「銀行」と「信託銀行」の違い、「信託銀行は何ができるのか」を国民に対して、池上彰よろしく分かりやすく説明して頂きたい。


とにかく、このあたりの問題は、法律、銀行業務、土地開発の専門家でなければ分からない。迅速な対応を求む!



(4月2日)新聞はけっこう使える。


■ 新聞スクラップ再開しました。



  



■ 役に立つ記事がけっこうあるので、いくつか紹介します。





 (3月28日)日経新聞朝刊

   黒坂佳央(マクロ経済学



2009年末時点で日本の対外純資産残高は266兆2230億円(前年末比18.1%増)。19年連続で世界最大の債権国である。ちなみに2位は中国で167兆7333億円、3位はドイツで118兆8596億円。他方、米国は314兆8299億円(08年末)の対外純負債を抱え、世界最大の債務国である。


(中略)


「十分なものを所有しながら、それを使用することも享楽することもできない人をこそ、貧困にして不幸なものというべきである!」と論じたのは、かのゲーテである(『イタリア紀行』)。対外純資産残高世界一を19年連続で維持してきた日本が、万が一にも今回の震災による危機を乗り切ることができなかった場合、ゲーテの言葉に則していえば、「世界最大の対外純資産を所有しながら、それを使用することも享楽することもできない日本こそ、貧困にして不幸な国というべきである!」ということになりはしないだろうか。


(中略)


大震災の発生は悲劇であるが、その復興のために利用可能な資金と遊休資源は十分存在することが、低成長下における世界最大の対外純資産国日本の強みである。


震災からの復興のプロセスで国内貯蓄が被災地の生活インフラや生産インフラ・設備の復旧といった国内投資に振り向けられることにより、対外純資産の蓄積は一時的にスローダウンせざるを得ない。しかし、そのような国内投資の増加が需給ギャップを解消して完全雇用を実現した後に、「安定した所得を期待できる海外資産への投資」比率を再び高めることができるとすれば、日本経済の新しい夜明けが到来するかもしれない。



 (3月28日)日経新聞朝刊

   石山修武(建築家)



私が気仙沼と付き合ったおよそ四半世紀の年月は、漁業の衰退と軌を一にしていた。数え切れないほどの市民集会に加わり、のべ千人単位の住民と顔を合わせ、町づくりの方策をあれこれと考えたけれど、港の活気が失われていくのを止めることはできなかった。その大きな要因は、日本の政治の怠慢にあったと私はいま思っている。そして3月11日、弱体しきった町に大震災と津波が襲いかかった。



 (3月30日)日経新聞朝刊

   石川直樹(写真家)



ただし、新聞をはじめテレビやラジオで取り上げられるのは、被害の大きかった地域ばかりで、死亡者が少ない土地や、半壊や冠水などといった地味だけどその後の人生に支障をきたすような被害を受けた場所は、なかなか取り上げられることがない。死亡者・行方不明者数ばかり気をとられてしまうが、その背後に存在する膨大な数の避難者数が意味するのは、生きてなお苦しみを被る人の数でもある。マスコミに取り上げられることのない、無数の人の人生を、ぼくたちは表に出ている報道のその奥から、今後読み取っていかねばならない。



 (3月30日)日経新聞朝刊

   藤田昌久(空間経済学)



本稿では、「空間経済学」の視点を交え、経済への影響を分析し復興の姿を考察する。


(中略)


東北・北関東は、自動車や電機などの組み立て型メーカーに基幹部品や素材を供給する工場が集積し、先端製造業の心臓部ともいえる一大拠点である。


(中略)


阪神大震災のとき、神戸港は壊滅的な打撃を受けた。修復までの2年で、国際ハブとしての機能は釜山や上海、高雄に奪われた。つまり「国際海運ネットワークのハブ」というロックイン効果で、神戸港は過去、国際ハブ港であり得たが、いったんそれを失うと取り戻すのは困難なのだ。 神戸港がたどった運命を避けるべく、日本の先端製造業は被災地での生産活動を一刻も早く回復させる必要がある。


(中略)


筆者は日本地域経済社会システムを外的ショックに対してレジリエント(復元力に富んだ)なものにする方向を提案したい。 (中略) 日本経済の東京一極集中構造も転機かもしれない。首都圏機能の完全マヒによる影響を減らすためにも、地域主権を本格的に推進し、自律性をもった多様な「地域」が6〜7程度できるよう、多極連携型の国土構造へ再構築する必要がある。そのモデルとなるべき、すべきは、今回最も甚大な被害を受けた東北であり、国民挙げた支援が望まれる。戦後最大の危機に、日本が一丸となって果敢に応戦し、新しい日本を創ることが、今回犠牲となった多くの方への最善の供養であると信じたい。



 (3月31日)日経新聞朝刊

   豊田泰光(野球評論家)



野球とともにあった人生のなかで、これほど白けた気分になったのは初めてだ。もともとこの数年、プロ野球に対して「何か違う」という感じはあった。そこにもってきて理解に苦しむ開幕強行騒動。球春のときめきもなにも、あったものではない。 (中略)要はペナントレースプロ野球のすべてではないということ。


(中略)


甲子園での宮城・東北高校にはその何かがあった。


(中略)


惰性の世界から脱し、今こそプロ野球は勝ち負けを超えた何かを持たなくてはならない。



 (4月1日)日経新聞朝刊

   水産業



三重県南伊勢町の迫間浦漁港。津波によって養殖マダイやシマアジの漁獲量の3分の1に当たる90トンが死んだ。




北海道のホタテ養殖の9割以上を占める内浦湾では養殖施設がほぼ全壊した地域がある。



 (4月1日)日経新聞朝刊

   教 育



文部科学省鈴木寛副大臣は31日の定例記者会見で、東日本大震災で親を失うなどして身寄りがなくなった子供を受け入れる寄宿舎付きの小中一貫校を岩手県に建設する構想を明らかにした。(中略)鈴木副大臣は「身寄りがない子は通常、児童養護施設で受け入れるが、地元施設に入れるとは限らない。寄宿舎で暮らすことで地域との縁を保ち、将来にわたり復興を担う人材を育てたい」と説明した。

 (4月1日)日経新聞朝刊

   農 業



「もうイチゴは作れない」。東北随一のイチゴ出荷量を誇った「仙台イチゴ」の産地である宮城県亘理(わたり)町と山元町の農家から、嘆きの声が漏れる。


(中略)イチゴは塩分に弱く、土が海水に浸った影響も計り知れない。「果たしてどれくらいで元の状態に戻せるのか」と話した。




津波で浸水した宮城県の仙台平野に広がる田んぼは、深刻な塩害が懸念される。(中略)農家は「10年はだめだ」と肩をおとす。



 (4月1日)日経新聞夕刊

   さだまさしシンガー・ソングライター



気仙沼市の階上中学校卒業生の答辞だった。少年はこの災害に対応できなかった事を悔やみ無念の心を語り、しかし「それでも天を恨まず」と叫んだ。「天を恨まず」とはこの苦しみの中でよくぞ言った、と僕は一緒に泣いた。そうなのだ、どれ程苦しくとも天を恨まず、己を諦めず、懸命に生きよ、と僕は少年の涙に叱られた気がした。



 (4月2日)日経新聞朝刊

  東日本大震災・いま何をすべきか



被害の差はあるが、過去にも被災し、集団移転を強いられた例はある。2000年の火山噴火で全島避難した東京都三宅村と、04年の新潟県中越地震で全村避難した旧山古志村長岡市)だ。


(中略)


重要なのは避難した人々の孤立を避ける工夫だ。なるべく集落や地域単位で受け入れ、ボランティア団体と協力して生活を支える。臨時の仕事も提供する。お年寄りが情報過疎に陥らないように、古里の状況を随時伝える仕組みも不可欠だ。



 (4月2日)日経新聞朝刊

   町田勝彦(シャープ会長)



「政府が産業政策上、東北地方のエレクトロニクス産業は大事だから支援するとの姿勢を明確にすべきだ。迷う経営者の背中を押してやらなければ、現実に流される」


(中略)


「被災地の先端産業を早急に再建すると同時に、新たな町づくりによって新しい日本型の産業モデルを確立すれば、日本はすごいなと世界は再認識するだろう。原発事故で傷ついた日本の信用を回復するには、そのくらいの大きなことを考えなくては駄目だ」


(中略)


「環境がキーワードになる。省エネや廃棄物削減を追求するエコシティやエコタウンの構想が既にある」「環境重視の町づくりは総合産業だ。太陽光発電や発行ダイオード(LED)照明、通信システムなど新技術の結晶である。我々も各地で計画に参画しているが、既存の都市では小規模な実証実験にとどまる。被災地では、町全体をゼロからつくることになる」 「原子力は今後も大切だと思うが、今回は巨大システムのもろさが出た。太陽光発電所は数千世帯が対象で分散型だ」



 (4月2日)日経新聞夕刊

  中小の資金繰り悪化



箱根の温泉宿は震災直後から「予約のキャンセルが相次いでいる」という状態だ。外資系資本の入った老舗ホテルでは、正社員以外の契約社員、パートは解雇になった。深刻な売り上げ減からで、管理職の賃金3割カットも始まった。


(中略)合板メーカーも東日本の生産の3割近い工場が、宮城県石巻市に集中。津波被害で操業再開にメドが立たない。自動車と並び裾野の広い住建業界でもサプライチェーンの輪が切れた。「このままでは職人の給料が払えない」と首都圏のある工務店の組合は被災地でのがれき除去や、土葬の請負に人を派遣できないか、連絡を取り始めた。


リーマン・ショック後の金融危機の教訓から日本企業は手元資金を積み上げた。法人預金は100兆円を超える。しかし、多くは大企業の資金で中小企業の大半は資金繰りで自転車操業を続けてきた。このままでは「震災倒産が多発しかねない」(信用調査機関)との声が聞こえる。











 阪根タイガース日記2010年3月(その2)


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